大人の発達障がい~特性の理解から支援制度の活用まで~

近年、ノーマライゼーションの理念の普及に伴い「発達障がい」という言葉は広く知られるようになりましたが、「大人の発達障がい」に関する認識や適切な対応については、まだ十分に浸透しているとは言い難い状況です。本稿では、大人の発達障がいの定義、特性、相談先、そして利用可能な支援制度について詳しく解説します。

大人の発達障がいとは
発達障がいは、生まれつきの脳の働き方の違いによるものであり、「発達障害者支援法」では、自閉症、アスペルガー症候群、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などが定義されています。これらは低年齢で発現するものですが、幼少期には「個性」や「性格」として捉えられたり、周囲の手厚いサポートによって問題が表面化しなかったりすることがあります。
その結果、障がいに気づかないまま成長し、大人になってから初めて自身の特性を自覚するケースが「大人の発達障がい」と呼ばれます。決して大人になってから障がいを発症したわけではありません。
社会に出ると、高度なコミュニケーションやマルチタスク、期限管理など、求められる能力の複雑さが増します。こうした環境変化により、潜在的だった特性が仕事や人間関係の摩擦として顕在化し、初めて障がいに気づくきっかけとなるのです。

主な発達障がいの特性
大人の発達障がいに見られる主な特性は以下の通りです。

1. 自閉スペクトラム症(ASD)
社会的関係の構築に困難を抱えるのが特徴です。相手の気持ちを推し量ることや、視線・表情を通じた非言語的なやり取りが苦手です。特定の対象への強いこだわりや、急な予定変更への抵抗感、感覚過敏を持つ場合もあり、社会生活で生きづらさを感じることがあります。

2. 注意欠如・多動症(ADHD)
年齢に見合わない「不注意」「衝動性」「多動性」が特徴です。集中力が続かず、ケアレスミスや忘れ物、紛失が多くなるほか、じっとしていることが苦手で絶えず体を動かしてしまうことがあります。本人の悪気に関わらず、社会的な誤解を受けやすい特性です。

3. 学習症・学習障害(LD)
全般的な知的発達に遅れはないものの、「読む」「書く」「計算する」などの特定の能力に困難が生じます。努力不足と誤解されがちですが、脳機能の違いによるものです。近年は「Learning Differences(学び方の違い)」として、その人に合った学習アプローチの重要性が認識され始めています。

4. チック症
本人の意思とは無関係に、素早い体の動き(運動チック)や発声(音声チック)が起こる疾患です。症状が1年以上強く持続し、生活に支障をきたす場合は「トゥレット症」と呼ばれます。

5. 吃音(きつおん)
音の繰り返しや引き伸ばし、言葉が詰まるといった症状により、スムーズな会話が阻害される状態です。電話応対や急な発言を求められた際など、心理的な準備ができていない場面で症状が出やすくなる傾向があります。

相談先と診断について
「自分は発達障がいかもしれない」と感じた場合、診断を受けるには医療機関(精神科や心療内科)の受診が必要です。しかし、いきなり病院に行くことに抵抗がある場合は、公的な相談窓口の活用が推奨されます。

・発達障害者支援センター
国の事業として運営されており、無料で専門的なアドバイスが受けられます。診断がなくても利用可能で、必要に応じて医療機関の紹介も行っています。
・市区町村の窓口
福祉課などで相談を受け付けています。
・大学の相談窓口
大学生の場合は、学内の「障害学生支援室」や保健センター、学生相談室などで専門家のカウンセリングを受けられる体制が整いつつあります。

利用できる支援制度:障害者手帳について
2005年に施行された「発達障害者支援法」により、発達障がいは法的な支援対象となりましたが、身体・知的・精神障がいに比べて法整備が遅かったため、「発達障害者手帳」という名称の専門手帳は存在しません。そのため、発達障がいのある方が手帳を取得する場合、以下のいずれかを選択することになります。

1. 療育手帳
知的障がいを併せ持っている場合に取得対象となります。18歳以上の場合は「知的障害者更生相談所」で、18歳未満は「子ども相談センター」で判定を受けます。IQテストや面談を経て、約1~2ヶ月で結果が通知されます。
2.精神障害者保健福祉手帳
知的障がいがなく、発達障がいの診断がある場合に取得対象となります。初診日から6ヶ月以上経過していることが条件です。医師の診断書を作成してもらい、市区町村の窓口へ申請します。その後、精神保健福祉センターでの審査を経て交付されます。

手帳を取得することで、障害者雇用枠での求職活動が可能になるほか、税金の減免、公共施設や交通機関の割引など、様々な福祉サービスを受けられるようになります。

医療費の負担軽減制度
継続的な通院が必要な場合、「自立支援医療制度(精神通院医療)」を利用することで、医療費の自己負担を軽減できます。通常3割負担の医療費が、原則1割(公費負担で90%カバー)となります。世帯所得や症状の重さに応じて月額の負担上限額が設定されるため、経済的な不安を和らげることができます。この制度は、精神障害者保健福祉手帳と同時に申請することで手続きを簡略化することも可能です。

まとめ
大人の発達障がいは、その特性や困りごとの程度が一人ひとり異なります。社会生活での困難を感じた際は、一人で抱え込まず、専門機関や医療機関に相談することが第一歩です。適切な診断と、手帳制度や医療費助成などの社会資源を有効に活用することで、自分らしい生活を送るための環境を整えていくことが大切です。